6/7(火)放送
出演:是枝裕和監督、西川美和監督、分福プロデューサーの北原栄治さん
町田の笑いについて
西川監督:(池松君が競輪場で阿部さんの言動に笑う場面)池松君が笑ってくれるから、観客はそういう眼差しで良多を見て行ける。観客が笑っていいところを池松君が上手く誘導してくれる。あれ笑わせるってすげえ演出だなあと思って台本見たら「(笑)」とか何も書いてない。あれはどうしたの?
是枝監督:あれは笑ったの。池松君が勝手に。で、勝手に笑ってるのを見て、ああ、池松君は良多が父親の代わりなんだと思ったの。子供の時離れてしまって会えなかった父親の代わりが良多で、生き直しをしてるんだな、だから甘いんだなと思ったの。彼のお芝居を見て、彼が良多を見る目線の優しさの中に、もう失われてしまったものに対する哀惜みたいなものを感じたわけ。それはこの映画のテーマでもあって、なくなっていくもの、なくしたものに対する哀惜の念というものを、彼はあの笑みの中にこめているなと感じ取ったもんですから、色んなところを結構変えたり、足したりした。全部最後にふっと笑ってくれてるんですよね。
西川監督:もう一カ所は、家に訪ねてきて、なんの取り立てだと思ったんですか、なんだかわかんないよ、のあとにも笑いますよね。あれがすばらしいんだよなあ。そういうところで笑ってくれる池松君を見て、監督が発見をしたと。でそのあとで、そこは意識してやってくれっていう指示はあったんですか?
是枝監督:しない。
西川監督:まかせた?
是枝監督:もうこういう設計をしたんだな彼は、と思って受け止めて。
西川監督:話合いは?
是枝監督:そういうときはしない。いいね、それいいね、とかいうのは、かっこわるいから言わない。それでお願いしますとか言わない(笑)。
北原さん:台本一緒にやってるときに、ほんとに町田ってわかんなくて。この役って一体どういう意味があるのかまったくわかんなかったから、演ってもらってようやく、こういう役なんだ!ってわかったって感じですよね。
西川監督:すごく敗北感を感じたんですよ。どういう感情でこのお芝居をやるか(自分ならト書きで)書き込んでる。自分のホンには役者にとっての余白がないのかもしれないって思っちゃって。笑うって監督に書かれちゃったら、やらざるをえなくて。そのト書きが何もないのに、あれができているというのは、やっぱり余白があるんですよ、良い意味で。それは良い役者じゃないと使えないし…
北原さん:池松君じゃなかったら大変でしたよ
西川監督:そうなんですよ、役者によるんですけど、多分演出家がコントロールできない域のものを引き出すのはこういうホンなんだと思ったんです。書き込めば良い、完成度が高ければ良いと考えちゃうんだけど、自由度がないし、自分が思ったところに押し込めたものが100点だとなっちゃってる気がした、自分の演出が。
ディスカッションはしてない
是枝監督:良多の側からみた町田はわかってたけど、町田の側からみた良多は(台本の段階では)わかってなかった。それは現場でみて、ああそうか、と。で、張り紙のシーンは新しく書いた。ああいうのは現場で池松君見て出てきた。
西川監督:その、池松君が良多のことを父に置き換えて見ている、というようなことは、終わってから、そうだったの?とかいう話はされたんですか?
是枝監督:しない。
西川監督:ええ??じゃあ、それはそう見えてる、って監督に解釈されたというだけ?
是枝監督:うん。
西川監督:池松君がどう設計してやってたかは本当にはわからない?
是枝監督:うん。聞いてない。
西川監督:ディスカッションはなかったわけですね?
北原さん:西川さんも是枝さんも池松君とあんまりしゃべってないですよね
西川監督:しゃべれないのなんかもうすごく緊張しちゃって…
北原さん:2人ともなんか池松君にすごい緊張してるっていうか(笑)
西川監督:あのね、できちゃってるのよもう。
是枝監督:そんな(ディスカッションの)必要ないんだよ。
西川監督:出来てる人に何もいうことはなくて。
是枝監督:プロモーションビデオのときも思ったんだけど、そんなに密なディスカッションを彼も要求してない。あの映画の中で、俺言ったの一点だけ。車の中でお前高校のとき何になりたかったって言って、もう忘れましたって言うのを、最初に出てきた言い方は、本当に忘れてる言い方だった。で本当は覚えてる感じだとどうなる?って言ったら、本人が、あーーそっちか、って言って、全く変わったの、ガラッと。いきなりああなったの。
西川監督:すばらしかったね、あの言い方。色っぽくてね。だってまだ忘れるほど昔じゃないでしょ、年齢的にも。それを言っちゃうこの若者の切なさよ、と。すばらしかったですね。車内で、声がちっちゃかったでしょ?
是枝監督:大変だよ。(録音の)鶴巻さんがんーー(音量)上げるとノイズがなーーってずっと言ってた。
西川監督:(是枝監督は)小さい声で会話するということを思い切って色んな場面でやられていて、つい俳優は(声を)張るでしょ?そうじゃなくて、本当にその空間とシチュエーションをリアルに再現した音量でとれていることがとても効いてますね。
是枝監督:驚くべきことに、普通子役はそれを無視して大きな声を張るじゃない?だけど子役出身の池松君と吉澤太陽君がいちばん張らないというね(笑)
町田の良多への借りについて
西川監督:池松君が、良多に借りがあるっていうでしょ、あれは何?
是枝監督:まあなんかたいしたことじゃないんだけど借りがあるんだよ。
西川監督:意味深だなあ。
是枝監督:決めてない。
西川監督:うわー、すごい投げ方ですね。何かでキーワードを回収しようとせずにそういう台詞を書いちゃってるってことですね。すごいね。なかなか出来ることじゃない。私の映画って、縦軸で進んで行くことが多いから、やっぱり横に広がって行く余談であったり、物語に貢献しない事っていうのはことごとく省かれていっちゃう傾向がある。それはそれでいいと思ってるんだけど、今回の海よりも〜のよさって、横に広がって、脱線なんだか脱線じゃないんだかよくわからない、こうしながら(横に広がりながら)進んで行く感じ。水拭きしながら同じところを拭いてるように見えてもちょっとずつ進んで行く感じ?が、とても豊かだなあと。どうでもいいことをたくさん撮ってるでしょ、カルピス氷のアップとか。あのアップで、薄すぎるカルピスで、彼等がどういうスタンダードで生きてきたかが見える。
是枝監督:あれ器がモロゾフなんだよ。おもたせでもらった、それほど高級ではないお菓子の器を捨てずにとっておいてるっていう設定なんだけど。(カメラが)よるとわかるっていう。
西川監督:今回の映画では絶対必要だったというのがとてもよくわかる
是枝監督:借りに関して言うとね、すごいのは、池松君がこの借りってのはどんな借りでしょうかって一度も聞いてこなかったよ。
西川監督:…なんなんだろうなあ…。
北原さん:普通気になっちゃいますよね。
是枝監督:すごいな、この子、聞いてこない。
西川監督:逆に、池松君に何か聞かれたことってあります?
是枝監督:ない。
西川監督:笑。私もなかったけど(笑)
北原さん:それすごいね。
是枝監督:もし、町田は良多にどんな借りがあるんでしょうかって聞かれたら、どんな借りだと思う?って聞こうかなと思ってたの。で、彼がこんなですかね、って言ったら、ああじゃあそれで行こうか、っていうくらいの(笑)。
西川監督:回収し切らなくてもいいっていう、言葉で説明したりしなくて放置されてるところが豊かさであり、いいところなんでしょうねえ、この映画の。
***
この日の他のお話の中でも、橋爪功さんと樹木希林さんのお話の時、良い役者は身体能力が高いという流れで「池松君もフィジカル、身体能力が高い」とか、阿部寛さんも本木雅弘さんも池松君をほめているとか、深津絵里さんを絶賛するときに、「池松、橋爪ラインにいる」という言葉になったり、本木雅弘さんが池松さんに演技について聞いて、本木さんが感心する(ここだけ録音失敗したので書き起こせませんでしたが、キネマ旬報の本木さんインタビューでも出てきた「100%で演じることは過剰、80%で演じてる」のお話だったみたいです)など、沢山名前が挙がっていました。
〆(._.)素人の局員には技術的なことなどよくわかりませんが、これを聞いて、池松さんは本当にすごいなと思うと同時に、是枝監督のすごさというものをつくづく感じました。世界的に認められていて確固たる地位があるのに、初参加の若い俳優のアドリブを一瞬にして認めて、それにあわせて映画の内容まで変えてしまう柔軟性と瞬発性は、本当に目からウロコでした…。(是枝監督はいつもこのスタイルのようですが)
5/30(月)放送
出演:是枝監督、分福プロデューサーの北原さん、「海よりもまだ深く」プロデューサーの田口さん、助監督の兼重さん、監督助手のヒロセさん
・このラジオ番組収録の前日にプロモーションビデオを撮り終わった。(カンヌ出発前)
・PVに出て来る犬の名前はポン吉(「エンディングノート」監督の砂田さんの犬)砂田さんは来れなくて、ポン吉はドッグトレーナーとお付きの3人ひきつれていた、池松君は(マネージャーもなしに)1人で来てるのに(笑)
・(池松君は)キャスティングで名前が挙がって、意外とすんなり決まった
「『MOZU』で、運動神経がいいのと、ボソボソしてて(声を)張らないってのがよかった」
「日藝の卒業制作をお台場の学生映画祭で観て、(←「家族の風景」ですね!!)それがすごく良かった」「今回池松くんに決めて、間違いなくあそこがふくらんだ。台本ではどういう役かいまひとつわからなかったが、撮り始めて、お互いに欠落を補っている形が団地の外側にあるっていう、すごく重要な役割だと思った。それでポスター貼りながら歩くシーンを思いついて書いた」「ああいうのが一番楽しいね、自分でもよくわかんなかった事が役者によって立ち上がってなるほどって」(是枝監督)
「あの役にあんなに説得力がでると思わなかった。パチンコ屋すばらしかった。終わったあとに家が近いって普通に歩いて帰る池松君の後ろ姿のかっこいいこと。飄々としていてね。PV昨日まで撮っていたけど、立ち姿というかなんであんなに色っぽいんですかね。べた褒めです(笑)」(北原さん)
・完成披露で質問が出たが、池松君の良多に借りがあるという話は、小説には書いている。(幻冬舎から発売中の「海よりもまだ深く」小説版)
・高校の校門の前の車の中で、「お前は何になりたかったの」と言われ「忘れました」っていうところ、監督から「覚えてる感じに言って」と演出され、全然ちがう芝居に変わった。
・是枝監督はずっと「すごいんだよ、繊細な芝居が」と大絶賛だった
・西川監督の「永い言い訳」でも全然違うキャラクターだけど、主人公の隣にいて、存分に包容力を発揮してくれる。主人公がそれによって救われる役